本日の一冊
本について語りつつ、冷蔵庫の牛乳の賞味期限も気になる男──あんり収穫祭です。
今日ご紹介するのは、小泉八雲の曾孫・小泉凡さんによる『怪談四代記 八雲のいたずら』(講談社文庫)です。
書誌情報
著者:小泉凡
出版社:講談社
発売日:2016/7/15(単行本:2014/7/24)
文庫:288ページ(単行本:223ページ)
小泉八雲と「漂泊の哲学」
「耳なし芳一」「雪女」など、日本人の記憶に深く刻まれた怪談を残した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。
ギリシャで生まれ、アイルランド、カリブ海、アメリカを経て、日本へ──。まさに世界を渡り歩いた漂泊の人でした。
八雲は随筆「幽霊」でこう語っています。
生まれ故郷から漂泊の旅に出ることのない人は、ゴーストを知らずに過ごすかもしれない。しかし旅する者は、十分にそれを知り尽くす。
八雲にとって、旅こそがゴーストと出会う方法だったのです。
曾孫・小泉凡がたどる「怪談の血脈」
著者の小泉凡さんは、八雲の曾孫であり民俗学者。
子どもの頃から「放浪癖」があり、やがて八雲ゆかりの土地を訪ね歩くようになります。
- ギリシャのキシラ島(八雲の母ローザの故郷)
- 幼少期を過ごしたアイルランド
- 青年期を送ったニューオリンズやマルティニーク島
- ルーツをたどるノルマンディー地方
訪れるたびに、不思議な縁や出会いが待ち受けていたと凡さんは記します。
まるで八雲のゴーストが導いているかのように。
「怪談のまち松江」へ
凡さんがとりわけ力を注いだのが、島根県松江市。
松江城の城下町には、八雲ゆかりの場所や怪談にちなんだ史跡が点在しています。
凡さんはアイルランドで「ダブリン・ゴーストツアー」に参加した経験をもとに、松江でも「ゴーストツアー」を企画。
観光資源として「怪談のまち松江」を世界に発信しています。
実際に私も『怪談四代記』と『日本の面影』を携えて松江を訪れました。
夜行バスの車内で震えながら読み、出雲大社でひそかに八雲の影を探した旅は忘れられません。
読むとどうなる?
『怪談四代記 八雲のいたずら』は、ただの家族史でも、ただの怪談本でもありません。
- 八雲が生きた漂泊の哲学を著者とともに追体験できる
- 家族をめぐる「不思議な縁」の連鎖を感じられる
- 現代の私たちにとっての「ゴースト」とは何かを考えさせられる
旅に出たくなる。怪談を語りたくなる。
そんな衝動を呼び起こす一冊です。
さらに読みたい人へ
- 『新編 日本の面影』(角川ソフィア文庫)
八雲が日本文化をどう見たのか、改めて知ることができる代表作。 - 『小泉八雲東大講義録 日本文学の未来のために』(角川ソフィア文庫)
八雲が東大で語った講義録。日本文学をどう未来へ繋ぐか、熱気が伝わる。
まとめ
『怪談四代記 八雲のいたずら』は、八雲とその家族が歩んできた百年の物語を通して、「怪談」と「旅」と「家族の縁」がいかに結びついているかを描き出しています。
ページをめくるごとに、遠い国や時代を越えてゴーストが呼びかけてくる。
そんな不思議な読書体験を、ぜひ味わってみてください。
