本について語りつつ、冷蔵庫の中身も気になる男。あんり収穫祭、よろしくお願いします。
牛乳の消費期限は守るのに、原稿の締切は守れない。だから速読を学ぶのだ。
はじめに:速読は魔法ではなく「選球眼」
ビジネスの現場では、毎日とんでもない量の情報が降り注ぎます。レポート、メール、資料、そしてなにより楽しい読書。
読みたい本はたくさんある。日々増えてゆく、なのに、時間が無くてそれらはどんどん目の前に積まれてゆく。
「もっと速く読めればいいのに!」と嘆いたことがある人は多いでしょう。
しかし、速読は決して魔法ではありません。「必要なところを速く、重要なところは深く」読むための技術です。
ウディ・アレンの名ジョーク:
「私は速読のクラスを取り、『戦争と平和』を20分で読んだ。ロシアについて書いてあったと思う」
速読を誤解するとこうなります。大事なのは、速さと理解のバランスを取る“選球眼”なのです。
速読の基本原則(まず押さえたい3つ)
1. 読む理由が速さを決める
すべての本や資料を同じスピードで読む必要はありません。
読む目的によって「速さ」を変えるのが、最も効率的です。
- 概要把握 → 「大体どんな内容か知りたい」なら、段落の最初と最後だけを拾う“スキミング”で十分。
- 意思決定や交渉準備 → 重要な章やデータ部分は、じっくり精読。必要のない箇所は読み飛ばしてOK。
- 暗記や学習 → 速読よりも、時間をかけて繰り返す方が効果的。むしろ“ゆっくり”読む勇気が必要です。
つまり、読むスピードを決めるのは「本」ではなく「あなたの目的」です。
2. 戻り読み(リグレッション)を減らす
気がつくと同じ行を何度も読み直してしまう——これは「戻り読み」の癖です。
脳が集中していない証拠であり、速読の最大の敵です。
戻り読みを減らす方法はシンプル:
- タイマー読書 → 「15分でこの章を読む」と制限をかけると集中力が増す。
- 指ペーシング → 行の下に指やペンを置いて、目を“強制的に”前に進める。
- 行ハイライト → 電子書籍なら1行ずつマーカー表示にして、戻りにくい環境を作る。
「環境を工夫して戻らせない」ことがコツです。
3. 背景知識(スキーマ)を増やす
速読の“本当の秘密兵器”は、実は訓練よりも知識の量です。
たとえば、経済の本を読むときにニュースで基本的な用語を知っていれば、理解が一気に速くなります。
知っていることが多いほど、新しい情報は「既存の棚」にスッと収まる。
つまり、速読力は「知識の貯金」で決まるのです。
科学が推すトレーニング方法
周辺視野トレーニング(シュルテ・テーブル)
シュルテ・テーブルは、ランダムに配置された数字(1〜25など)を順に見つけていく練習です。
例:
19 3 25 7 12
6 14 1 22 9
11 5 18 24 2
21 8 13 4 15
10 20 16 23 17
中央を見据えたまま、視野の端で数字を探すイメージで取り組みます。
この練習を繰り返すと、「一度に見える範囲」が広がり、読書速度が自然と上がるのです。
内声化(頭の中の音読)のコントロール
人は黙読していても、頭の中で“声”を出しています。これを「内声化」と呼びます。
すべてを音読するとスピードが遅くなりますが、完全に消すのは逆効果。
- 易しい文章 → キーワードだけを声にする(例:「売上」「前年比」など)。
- 難しい文章 → あえて全部を声にして、理解を優先。
コツは「状況によって内声のボリュームを変える」ことです。
記憶力・集中力の強化
速読は「速く読む」だけでなく「記憶を保持する」力も必要です。
- ワーキングメモリ練習:1段落を読んだら、10秒以内に「名詞3つ+動詞1つ」で口頭要約。
- タイムプレッシャー読書:制限時間を設けて読むことで、集中力が高まり、戻り読みが減ります。
「読む→保持→要約」の流れを繰り返すと、理解度が落ちにくくなります。
14日マスタープラン(忙しい人向け)
1日15分×2週間で、速読の“基礎筋力”をつけるプランです。
- Day 1–3:シュルテ表(2分×3セット)+指ペーシング5分+要約練習
- Day 4–6:内声コントロール練習(易しい文でキーワード読み)+視野拡張
- Day 7:小テスト(記事1本を時間計測+理解度チェック)
- Day 8–10:スキミング練習(段落の初文・末文を拾って流れを把握)
- Day 11–13:集中トレーニング(雑音環境で読んでから静かな場所に戻す)
- Day 14:総仕上げ。再読ゼロを目標に、本1章を計測。
→ ポイントは「毎日少しでいいから、必ず続ける」こと。
筋トレと同じで、継続が効果を生みます。
ジョークをひとつ:
「最初の2日で8割終わらせろ」と本は言う。
私は最初の2分で全力を出し切り、その後98%サボった。
——それでも、速読練習は続けています。
ビジネスで使える“読み分けフロー”【実践版】
1. 読む前に“ゴール”を決める
読む速度や深さは「目的」で決まります。
- 決裁の判断材料にする → 数字や結論をしっかり精読。
- 全体像をつかむ → 各章の見出しや冒頭・末文だけを拾ってスキミング。
- 学習・暗記 → 時間をかけて繰り返し読む。
👉 「なぜ読むのか?」を最初に決めるだけで、無駄に全部を精読するクセから抜け出せます。
2. 読み方を“目的別に切り替える”
- スキミング(流し読み):必要な情報をザッと拾う。会議前の資料チェックや初見の本に向いています。
- 精読(じっくり読み):一字一句を理解する。契約書や重要データ、専門書に向いています。
👉 すべてを精読するのは効率が悪い。「どこは速く、どこは深く」を分けるのがプロの読み方です。
3. 読む前に“時間を宣言する”
「この章は15分で読む」と決めてから始めると、脳は自然と集中します。
- ポイントは制限時間を少し短めに設定すること。
- 仕事で締切があると人が集中するのと同じ効果です。
👉 タイマーを横に置くだけで“戻り読み”が減り、読書のスピード感が一気に変わります。
4. 読んだ後は“アウトプット”する
読みっぱなしはNG。必ず形に残すことが理解を深めます。
- 一文で要約:「この章のポイントは〇〇だ」
- 次の行動に変換:「この数字を会議で使う」「次回は関連章を精読する」
👉 読後1分のアウトプット習慣が、記憶定着と実務への直結力を高めます。
よくある誤解と回答
- Q:ページを一瞬で把握できる?
→ 物理的に不可能。視覚の仕組み上、人間は親指の幅ほどしか一度に鮮明に見られません。 - Q:内声はゼロにすべき?
→ いいえ。むしろ理解には必要。大事なのは「使い分け」。 - Q:学習や暗記にも速読が最適?
→ 暗記は繰り返しゆっくり読む方が効果的。速読は“入口”に使う技術。
まとめ:速さと深さのハイブリッドを
速読は、ただのスピード競争ではありません。
むしろ「読む自由度を広げる」ための技術です。
- 概要把握や情報収集には速読
- 深い理解や記憶には精読
この切り替えができる人こそ、情報化社会を生き抜くビジネスパーソンです。
ページをめくる指先は速度計ではなく、
言葉の重みをすくい上げる器具なのだと覚えておきましょう。
あなたの読書スタイルに、速読という選択肢を。
そして本当に大事な1行は、ゆっくり味わってみてください。
